つわりはなぜ起きる?ホルモンとの関係を医学的に解説
妊娠初期に現れるつわりは、多くの妊婦が経験する身体的変化のひとつであり、その原因として最もよく挙げられるのがホルモンバランスの急激な変化です。特に妊娠すると分泌が増える「ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)」や「プロゲステロン(黄体ホルモン)」は、つわりの発生に深く関与しているとされます。
hCGは胎盤の発達に重要な役割を果たすホルモンで、妊娠5週ごろから急激に増加し、妊娠10週〜12週ごろにピークを迎えます。この時期に多くの女性が吐き気や嘔吐、強いにおいへの過敏反応を訴えるのは、hCGの急上昇に身体が反応しているためです。一方で、プロゲステロンは子宮内膜を維持し妊娠を安定させる働きを持ちますが、胃腸の働きを緩やかにする作用もあり、これが消化不良や吐き気、嘔吐につながることがあります。
また、妊娠によって自律神経のバランスも崩れやすくなり、ストレスや精神的な不安もつわりを悪化させる要因の一つです。これらの身体的・精神的要素が複合的に影響し合いながら、つわりという症状が現れるのです。
つわりの発生には個人差が大きく、まったく症状が出ない妊婦もいれば、食事も水分も受け付けず、日常生活に支障をきたすほど重度な症状に悩まされる人もいます。特に「吐き気が一日中続く」、「匂いだけで嘔吐する」などの症状は、食事摂取量の減少や脱水を引き起こしやすく、医療的介入が必要になる場合もあります。
以下の表は、主なホルモンとそれがもたらす身体的変化をまとめたものです。
ホルモン名
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分泌時期の特徴
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主な作用・影響
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hCG
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妊娠5週~12週に急増
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胎盤形成、つわりの誘発、黄体刺激
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プロゲステロン
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妊娠初期から高水準で維持
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胃腸の運動低下、便秘や消化不良を助長
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エストロゲン
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妊娠中期〜後期に増加傾向
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血管拡張、体温上昇、気分の不安定さに影響
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リラキシン
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妊娠初期から出産直前まで分泌
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関節のゆるみ、骨盤の準備、筋肉の緊張緩和
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これらのホルモンは妊娠を維持し胎児を育てるためには不可欠ですが、同時に妊婦の身体には大きな負担をかけるため、つわりという形で表面化するのです。
つわりの種類と症状の違い
つわりには複数のタイプが存在し、妊婦によって現れる症状は異なります。代表的な3つのタイプを分類して、それぞれの特徴と症状、対応方法について詳しく解説します。
まず「吐きつわり」は、最も一般的なつわりのタイプで、常に吐き気を感じ、実際に嘔吐を伴うケースが多く見られます。朝起きた直後に強くなることから「モーニングシックネス」とも呼ばれ、食事が摂れないことから脱水や栄養不足を引き起こすリスクもあります。
次に「食べつわり」は、空腹になると気持ち悪くなるため、常に何かを口にしていないと落ち着かない状態です。食事を摂っていない時間が長くなると症状が悪化する傾向にあり、体重が急激に増えてしまうこともあるため、バランスの良い食品選びが重要です。
「よだれつわり」は、唾液の分泌量が異常に増加し、飲み込むのも困難になる状態です。常に唾液を吐き出さなければならないことから日常生活の質が低下し、外出を避けがちになるケースもあります。においや味覚の変化にも敏感になりやすいのがこのタイプの特徴です。
以下の表は、つわりのタイプ別に見られる主な症状と対応法をまとめたものです。
つわりの種類
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主な症状
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対応法・アドバイス
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吐きつわり
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吐き気、嘔吐、食事が摂れない
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冷たい食事、水分補給、ビタミンB6摂取など
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食べつわり
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空腹で気持ち悪くなる、過食傾向
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少量頻回食、炭酸水、ナッツ類などの活用
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よだれつわり
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唾液の過剰分泌、飲み込めず不快感
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口腔ケア、飴やガム、口の中をさっぱりさせる
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症状のタイプは一人の妊婦でも時期によって変化することがあり、「吐きつわり」と「食べつわり」を併発するケースもあります。また、妊婦の体質や精神状態、ストレスの影響によっても症状が悪化したり、軽減したりすることがあるため、対策は一律でなく個別に合わせる必要があります。